ゆびさきから恋をする
 制服を掴む力が弱まる気配はなく、むしろ震えは続いている。

「……あー、ちょっとドア確認行く……けど、待てる?」

 聞いたけれど、返事を聞く前に掴んでいる手首を包み込んだ。

「ごめん。ちょっと……触る」

 細い手首が俺の掌におさまるとなんだか二人とも変な空気になる。

 触れてしまった以上いきなり離すことも出来なくてそのままドアまで一緒に連れていく。ノブを押してもガチャっというむなしい音が響いて勘が当たってしまった。

「しまった。今日ピッチ、メンテに出してるんだよな。菱田さん携帯もってる?」

「じ、実験室に忘れました……」

(最悪)

「すみません」

 俺の気持ちを察したのか申し訳なさそうに謝られた。

「いや、菱田さんのせいじゃない。俺だって何も持たずに来てる。困ったな」

 考えていると掴んでいた腕に力が入っていたのか彼女が身じろぎをした。

「あ、ごめん。痛かった」

 ぱっと手を離すと彼女は頭を左右に振った。

(やばい、これセクハラ? ギリギリか?)

「ごめんなさい」

 彼女がまだ謝るから謝罪の意味が知りたくなる。

「謝ることなくない?」

 むしろ謝らないといけないのは俺の方である。
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