ゆびさきから恋をする
Section4

鬼上司はやっぱり雲の上の人

 久世さんと前より話が出来るようになったのは仕事を振られるようになってから。そしてやっぱりあの休日は大きな分岐点かもしれない。

 仕事を通じて、辞典を絡めて話す機会が増えた。残業すると雑談だってたまにした。

 最初のころは確かに怖いこともあったし取っ付きにくいというか、話しかけにくいオーラがひしひしと伝わってきたけど、踏み込んでみたらそうでもない。くだけた話もしてくれるし言い方はそっけなくてもいつも気にかけた言葉をくれる。
 
 態度よりずっと優しい人……今ではもうそれがわかっているから。


 思わず掴んでしまった服の裾。離れようとされて咄嗟に力が入った。

「ぁ……や……」

(行っちゃやだ)

 その思いは飲み込めた。
 頭では離さないととわかっているのに、掴む手は言うことを聞いてくれなくて久世さんを困らせた。

「……あー、ちょっとドア確認行く……けど、待てる?」

(待てます)

 頭の中ではちゃんと返事が出来ている。なのに、手の震えを止められない。それに焦った。

「ごめん。ちょっと、触る」

(え?)

 暖かい大きな手に手首を掴まれて、グイッと引っ張られて驚いた。
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