ゆびさきから恋をする
 胸がじんっとして……どうしたってキュンとなってしまう。

 暗闇が怖い、そんな気持ちよりも先に縋りたいような気持ちが沸いた。

 そしてその気持ちは久世さん相手だから沸いたのだと。頭より先に体が、足が一歩近づいていた。

「ごめんなさい、もう少しだけ……我慢してもらっていいですか」

 私は久世さんの制服の裾をきつく握り返したのだ。

 近づいた距離に胸が勝手にドキドキしていく。制服からする香りは柔軟剤なのか、さわやかで柔らかい匂いがして余計に鼓動は速まった。

 人の体温をはらんで放たれる香りはどうしてこんなに甘く届くのだろう。

 この胸を叩くドキドキに名前を付けたら何になるのか。考えたくないのに考えてしまう。


「……もうすぐ十七時かぁ」

 時計を見ながらつぶやいた久世さんの声にフイに視線が上がった。

「定時であがれないな、今日」

 そう言われてあいまいに微笑むものの。

「これって残業代つけれます?」

「めっちゃ残業じゃん、しっかりつけて」

「ええ? だって仕事してない」

 笑うと笑われた。

「仕事だよ、会社の都合に振り回されてたら全部仕事。割り切ってつけてください」

「……はい」

 そう言われたらもう頷くしかない。

「だいたいさ……効率よくやりすぎじゃない?」

 (え?)
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