ゆびさきから恋をする
 ある日のことだ。 
 給湯室横を通り過ぎようとするとき中で声がして思わず足を止めたのは私の名前が出たから。

「あぁ、あの子ね……可愛いとは思うけど、派遣でしょ? 派遣社員って信用できないんだよなぁ」

「え~でも胸でかいしさ、一回お相手願いたいな。うまく誘えばワンチャンないかな」

「ないだろ、職場でよくそんな面倒なことやりたがるな」

 姿を見られたくなくてそっと陰に隠れた。給湯室を出ていく後ろ姿を確認すると知った人だ。

(――中村(なかむら)さん、そういう風に思ってたんだな)


 製造部の中村さん。

 半年に一度仕事を引き受けるだけの関係だけど会うといつもお礼を言ってくれた。
 
 優しそうが第一印象で少し気弱な雰囲気がむしろ可愛いくていいな、と思った。

 好きと言っても好意的という意味だけど、好きになるならこんな人がいいな、なんて思ったこともある。


(そもそも対象でもないじゃん、私なんか)


 派遣でいると恋もできないのか。
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