ゆびさきから恋をする

年下の部下は避け始める

 もっと仕事の手を抜けと言ったのに全然抜かず、その上ほぼ残業もしないで試験件数だけを伸ばしていく彼女。仕事を振る俺も悪いけどさすがにやりすぎだ、と思いつつ忙しくて話す時間がないを理由に少し避けていたが、彼女も同じように俺を避けている気がしている。

 一度倉庫で閉じ込められてからなんとなく距離ができた。

 気まずいとも違うなんとなくできた距離感。それはきっと彼女だけでなく俺自身にできたのかもしれない。

 ふいに見せられた弱さと甘えに上司として受け止められなかった気がしていたからだ。


 あの日から数日後のことだ。
 渡された試験結果は彼女の表情を固くしていた。試験値にどこか不安そうな、そんな表情だったから問いかけた。

「納得いかない?」

「いかないというか……いいのかなって」

 渡された試験結果をもう一度見ながら答える。

「いいと思うよ。突っ込まれるかもしれないけど……(これくらいが妥当だろうな。N数もデータもとってばらつきがここまでなら十分対応できてるし)は、頭の中での独り言で。

 彼女は言葉を途中で切って黙った俺に余計に不安になったのか顔を上げて焦った声を出した。

「まだやります、やらせてください」

「え?」

「この結果で久世さんが頭を下げないとだめならまだやりたいです」

 その言葉に息をのんだ。
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