ゆびさきから恋をする
(本社に……帰っちゃうの?)

 久世さんは……いつか本社に帰る人。そうだったんだ、と胸にぽっかり穴が開いた。開いたらたまらなくなった。

 切なくて。

 胸が今まで感じたことのない切なさで締め上げられた。


「あ、戻ってきた」

 高宮さんの言葉に扉に顔を向けると久世さんが戻ってきた。

「悪い、部長に呼ばれてた」

「お前がいないおかげで菱田ちゃんと話してたし全然いい」

「仕事の邪魔すんなよ。これ、うちの管理表。てかなんで去年からできてないわけ?」

「それは前の課長さんに聞いてくれる? 俺も去年は開発担当してないし知らねぇよ」

 くだけたように話す二人は本当に気心が知れているんだと見ていて思った。だからきっと高宮さんの言った言葉はあながち嘘ではない気がした。

 久世さんはいつかここを離れていく人。ずっと一緒にいれるわけがない。

 そんなことわかりきってたのに、いつからこんなに厚かましくなったのか。


 仕事だけの関係でもいつか離れるのか。それなら先に離れてしまいたい。

 離れて行かれる前に――私から離れたかった。

 いなくなったこの場所でまたひとり頑張るのはもうできない気がした。そう思う時点でもう手遅れじゃないか、自分に問い聞かせる。


(もう手遅れだよ……)


 離れたくなかった、倉庫で二人になったときそう思った。

 でも、近くにいるほど遠い人と気づかされる。

 近づくほどに距離を感じていくだけでその現実がまたつらい。

 だから思う。この芽生えた気持ちに名前は付けずに心の奥の底にしまい込もう。


(もう開けないで……自分の胸の中で広がったら自分でそれを集めきれない)


 すぐになんか忘れられない、ないものにできないならもう隠して閉じ込めるしかない。

 そして一緒にこの仕事とも縁を切ろう……そう自分の気持ちを整理し始めていた。



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