ゆびさきから恋をする
 抱き寄せたその小柄な体は俺の腕の中にすっぽりと包まれて、包んだ瞬間に体になじむようでそのままぎゅっと抱きしめた。

 抱きしめたら……溢れるようで。

 気持ちが……思いが。


「もう言うな」

 抱きしめる腕の中で彼女が震える。その震えを抑えるようにきつく抱きしめてやる。震えているのにされるがままで体を押し返してこないのが余計に俺の気持ちを昂らせてくる。

「この半年で……誰よりも信頼してる。認めてるから頼ってる」

 もう誤魔化せない。

「いなくなると困る」

 いてくれないと、困るんだ。俺のそばに、誰よりもそばにいて欲しい。

 いい上司ではいれない、彼女の望む形には戻れない、その覚悟を決めて抱きしめる。

 腕の中で震える体からゆるゆると力が抜けていくのがわかった。同時にすり寄るように俺の体に体重がかかったと思うと、鼻をすする音がして彼女がまた泣いているのだとわかる。

「……泣くな」

「泣かせてるのは……久世さん……です」

 ひどい鼻声に思わず笑ってしまったら彼女が拗ねた声で言ってくる。

「笑わないでっ……」

「ごめん」

「どうして……そんなに優しくするんですか」

 (どうして、なんて……)

 そんなこと聞かれると思わなかった。

 どうして? そんなのひとつだ。

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