ゆびさきから恋をする
 私には責任のとれる仕事は何一つないのだと、五年勤めだしてその現実を突きつけられている。

 このままでいいのか、これからどうしていきたいのかをずっと悩んでいることは誰も知らない。

 誰にも言えずにいる。

(言える相手がいないだけとも言えるけど)

 なんだか虚しいのだ、ずっと、だんだん……満たされずにいる。


「アルコールを排水に流すのってどうなんでしょう」

 ある日の仕事中、ぼんやりとつぶやいた言葉に井上さんが振り向く。

「よくはないよね」

(ですよね)

「産廃の廃液ボックスにいれたらどうですか?」

「ボックスってあった?」

「ありますよ? あんまり使ってないですけどあの棚に」

 あるだけ、みたいに場所だけ占領していたそれを戸棚から取り出して井上さんに見せると「いいじゃん」と乗り気になる。

「これからはそこに廃液として捨てて産廃処理にしようか」

「ボックス内に容量が分かるように記帳もしていかないとですね。薬品ファイルにアルコール廃液のタグ作って記入していきましょうか」

「そうしよう、木ノ下(きのした)さんには僕から伝えておくよ」

 木ノ下さんは薬品管理を任されている社員さんだ。

「お願いします。じゃあ洗浄に使った廃液は今日からここに戻すようにしますね」

「うん、お願い」

 井上さんと二人で話して決めたことだから深く考えなかったが、木ノ下さんに呼び出されて――怒られた。

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