ああ、今日も君が好き。



パチパチパチと、どこからか拍手が聞こえる。
気付けば店内にいた他の客達が遠巻きに俺達のやり取りを見ていたらしい。



「お姉さん凄いわね!」

「格好良かったわよ!」

「見てるこっちまでスカッとしたわ!」



他の客が次々と見吉さんに群がり声を掛ける。



「そんな、格好良くなんてないですよ。私は本当のことを言っただけですし、それに…」



不意に見吉さんと目が合う。



「友人が困っているのを黙って見ていられなかっただけですから」

「み、よしさん…」



ああ、どうしよう。

やっぱり俺、見吉さんのこと…。



「みよ…「ユッキー凄い!」



途端、サーヤは俺の身体を押し退けて見吉さんの元へ向かう。



人が感傷に浸ってる時に邪魔しやがって…。



「ユッキーあったま良い!あのうざい客を言い包めちゃうなんて格好良いよ!てか、圧が凄かった!流石桜凛法学部のクイーンだね!」

「そんなことないよ」



謙遜する見吉さん。
でも彼女が“法学部のクイーン”と呼ばれるのは伊達じゃない。
桜凛大学は首都圏の有名私立大学だ。
私立の中でも上位五本の指に入る超難関大学で、一般的に高学歴と思われるライン。田舎者の俺ですら知ってるレベルだ。
桜凛は世間一般の印象も良いと言うことに踏まえて就職にもある程度強く、そして何よりもかなり倍率が高い。
その中でも法学部はあの東都大と肩を並べるほどのレベルを誇る。
見吉さんはその法学部に入学しただけではなく、何と首席合格で入学し、更に新入生代表の挨拶にも選ばれた頭脳明晰な持ち主。
そして何よりこの美貌。正に女王。彼女は誰よりも“法学部のクイーン”と呼ばれるに相応しい女性なのだ。



「それより、柴田くんごめんね」

「え、何が?」



俺は見吉さんの突然の謝罪に首を傾げる。



「だってお客さんにあんなこと言っちゃったから…」



「本当にごめんね」と言って頭を下げる、見吉さん。
俺はそんな見吉さんの両肩を掴んで慌てて制止した。



「あ、頭を上げてよ!見吉さんは何も悪くないから!」

「でも…」

「あの客はいつもああなんだよ!何かしらイチャモン付けては商品を安く買おうとすんの!」

「そうなの?」

「うん。だから見吉さんが謝ることなんて何もないよ。寧ろありがとう。見吉さんのお陰で助かったよ」



俺もいつかは言わなきゃいけないと思っていた。
でもやっぱり相手は客だから従業員の立場としては中々難しいものがあってずっと手を拱いていたのだ。



すると見吉さんは首を左右に振った。



「お礼を言われることなんてしてないよ。柴田くんは友達なんだから助けるのは当たり前でしょう」



きゅん。



「……クソかわ」

「だから声駄々漏れだって」


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