ああ、今日も君が好き。
「もう柴ケンってば、そんな硬いこと言わないでよ。サーヤと柴ケンの仲じゃん」
「どう言う仲だよ。そもそも元はと言えばサーヤが紛らわしいこと言うから悪いんだろう」
因みに、サーヤは自分のことを名前で呼ぶ。
本当、何で仲良くなったのか不思議で仕方ない。
「紛らわしいこと?……ああ、ユッキーの彼氏のことね」
「見吉さんは彼氏いないって言ってんだろう」
「だってそう思ったんだもーん。実際そーゆー噂があったんだもーん。友達なんだから気になるのは当然じゃん」
「まあ、友達なら…」
「それにユッキーなら彼氏の一人や二人いたって可笑しくないじゃん。寧ろいない方が不自然だし」
「サーヤにいるくらいだからな」
「それは可笑しくありません!チョー自然ですぅ!大体ユッキーに彼氏がいたっていなくたって柴ケンには関係ないじゃん。文句言われる筋合いはないと思うんだけど」
「っ、それは…」
サーヤの言い分は最もだ。
でも見吉さんに対して特別な感情を持ってる俺にとっては関係大有りだった。
「それは?(笑)」
「ゔっ…」
言えない。
ましてやこんなところじゃ、絶対言えない。
「もうサーヤってば揶揄い過ぎだよ。柴ケンが困ってるでしょう」
「む、村瀬さん…っ」
サーヤにいいように遊ばれている俺を助けてくれた、村瀬さん。
流石、皆のお母さん。
見吉さんが“女神”なら村瀬さんは“聖母”だな、うん。
「はいはい、もう村っちょは柴ケンに甘いなー」
「そんなことないよ。それにあたし以上に柴ケンに甘い人が近くにいるじゃない」
「あー……そうかも」
「え、近くにいるって誰のこと?サーヤ?」
「はいはい、ひろみんは黙ってようね煩いから」
「サーヤほど煩くないんだけど!?」
……喧しい。
不意に目の前に座る見吉さんを見る。
彼女はこっちの気持ちなんてお構いなしに皆と一緒になって楽しそうに笑っていた。
(ああ、もう可愛いな!)
もうお気付きだろうが、俺―――柴田健は高嶺の花である見吉さんに叶わぬ恋心を抱いている。
彼女と出会ったのは入学式から数日後のこと。
俺が一人で構内のカフェにいた時、俺のテーブルに彼女がぶつかって来て、飲んでいたコーラで課題を全部ダメにしたのがきっかけで話すようになった。
彼女は知らないだろうが、元々俺は入学式の日から“見吉雪緒”の存在を認識していた。
難関校である桜凜に首席で合格したばかりか新入生代表のスピーチまで務め上げた彼女の存在は当時から有名で、尚且つ文句なしのこの美貌だ。
当然周囲が放って置くはずもなく、入学して間もない彼女の傍にはいつも誰かがいた。いや、群がっていたと言った方が正しい。
だらしなく鼻の下を伸ばしている奴、物珍しそうに近付く奴、自分も彼女のように注目を浴びたい奴、と様々な視線が彼女を取り囲んでいた。
そんな光景を遠目から見ていた俺は「人気者も大変だな」とか「今日も大変だな」くらいにしか思っていなかった。
でも興味はあった。誰もが憧れる存在である高嶺の花が、どうしてそんな寂しそうな顔をしているのか気になっていたから。
でも、その程度。それ以外の感情はなかった、はずだったのに。
そんな俺が彼女に好意を抱くようになるのに、そう時間は掛からなかった。