黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~


「わぁ……素敵!」

 私は視界に広がる色とりどりのバラに感嘆の声を上げた。
 夜のバラ園も神秘的でよかったが、やはり陽の光をたっぷり浴びているほうが、バラの色彩がはっきりわかっていい。何度来てもこの景色は他に代えがたいすばらしさがある。

 甘くみずみずしい香りを胸いっぱいに吸い込んでから、隣を向く。

「連れてきてくださってありがとうございます、陛下」
「ああ。よろこんでもらえてよかった」

 満足そうに微笑んだ陛下の顔にぼうっと見惚れた。いつもよりも近い距離にずっと心臓が騒ぎっぱなしだ。

 朝食を食べた後、陛下はなんと私をそのまま抱き上げて寝室を出た。
 幸い毛布でぐるぐる巻きにされていたため、夜着姿をひと目にさらさずに済んだけれど、それにしても横抱きにされて移動している間にたくさんの人々に見られてしまった。皆一様に『あの冷酷皇帝が!』とでも言いたげな顔をする。

 陛下は私を下ろすことなく、バラ園をゆっくりと進んでいく。

「これではあまり散歩にはならない気がするのですが」
「そうか? 細かいことは気にするな」
「細かいことはって……」

 形のよい唇の角が持ち上がるのを見て、私は目をしばたたいた。

 もしかしてあれは確信犯だったの?

 皇帝と皇后の仲のよい姿を見せつけて、夫婦仲険悪節を塗り替えようとしたのかもしれない。
 実際、途中で出くわしたブルックリー侯爵は、苦りきった顔をしていた。

 そういえば、幼児化や誘拐事件のせいですっかり忘れていたけれど、前回ふたりでこのバラ園を散歩した後、待ちに待った初夜を迎える予定だったのだ。

 もしかしたら今夜……。

 慌ててかぶりを振った。不埒な考えのせいで頬が熱い。

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