黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 だめよ、オディリア。もう焦ったりしないって決めたじゃない。

 きっと女神様は陛下と気持ちが通じ合ったのを〝結ばれた〟と認めてくれたのだろう。だから命が助かったに違いないと、教皇様も言っていた。
 神託は守れたのだから、焦ることは何もない。

 でも――。

「オディリア? 顔が赤いがどうかしたのか」
「い、いえ、なんでも――」
「熱は……ないな」

 額をコツンと合わせられて、さらに顔が熱くなった。

「久しぶりに日光に当たったせいかもしれないな」

 陛下はそう言うとバラ園の中央にあるカゼボへと足を向けた。

 中に入るとベンチに下ろされた。ほっとひと心地着いたら、陛下がきびすを返してガゼボを出ていく。

「陛下?」

 追いかけようかと思ってやっと、自分が靴を履いていないことに気がついた。

 ずっと私を抱えていたのでお疲れになったのだわ。

 陛下が戻ってくるまでおとなしく待っていることにした。

 いつ見ても、本当にうつくしい庭だわ。

 ガゼボから見えるバラ園に飽きもせず見惚れる。甘く芳醇な香りに包まれているうち、ここへ初めて来たときのことが思い出された。

 神託を守らなければと必死だった。陛下の感情も自分の気持ちも、聖女としての役目以外のことは考えないようにしていたのだと、今ならわかる。
 あれからまだひと月も経っていないはずなのに、何年も前のことのように思えた。

 今も帝国の安寧を願う気持ちはまったく変わっていないけれど、それだけじゃない。
 私自身が陛下と本当の意味で夫婦になりたいと心の底から望んでいるのだ。
 互いに想いあっているのだから焦る必要はないとわかっているのに、気持ちがひとつだからこそもっと近づきたいとも思う。

 私って結構欲張りだったのかも……。

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