黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 次第に距離が縮まってくるが、お互いの顔がわかる距離に来ても彼は足を止めない。

 本来、すれ違う際は下位の者が足を止めて礼を取り、上位の者が通り過ぎるか声をかけるかを待つのがしきたりとなっている。それなのにそのまま素通りしようとしているということは、私のことを〝上位〟とは認めないと公言しているのだ。

 ええ、気持ちはわかりますよ、侯爵閣下。

 神託だからと突然皇后の座についた私を敬えないのも無理はない。貴族と平民の間には決して越えられない壁がある。

 大聖女であり教皇の養女でもある私は、平民ながら貴族達からぞんざいに扱われたことはない。けれどそれは表向きのことで、彼らは私のことを本心で敬っているわけではない。

「こんにちは、ブルックリー侯爵」

 こちらから声をかけると、侯爵はピタリと足を止めた。

「これはこれは皇后様でしたか。気づきませんで、大変ご無礼を」

 さも今気づいたかのようなそぶりで礼をした侯爵に、微笑みだけを返しておく。

 ひとしきり儀礼的なやり取りをした後、侯爵の後ろに立つ女性に視線を移した。私と同じくらいのご令嬢だ。

「そちらの方は……」
「ご紹介が遅れました。我が娘カリーナでございます」
「初めてお目にかかります。カリーナと申します」

 侯爵令嬢がドレスの裾をつかんでひざを折る。レースがふんだんに使われたピンク色のスカートがふわりと広がった。
 見事なカーテシーに目を奪われる。

 手入れの行き届いたサラサラの金髪。日焼けとは無縁の白い肌に長いまつげ。薄桃色の唇も。彼女を構成するすべてがキラキラと輝かしいものだけでできていると言っても過言でないほど、優美さに満ちあふれている。薄い皮膚の下に流れる血ですら、私とは違う成分でできていそうだ。

「初めまして、ブルックリー嬢。オディリアです」

 顔を上げた侯爵令嬢と目が合った。
 吸い込まれそうなほどきれいな水色の瞳に見つめられ、なんだか胸がドキドキしてしまう。挙動不審になりそうなのであえてにこりと微笑んでみせるも、彼女は表情を変えない。釣り気味の二重まぶたでこちらをじっと見ている。

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