黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 何か私に言いたいことでもあるの?

 尋ねてみようと口を開きかけたところ、ブルックリー侯爵の声が重なる。

「帝国広しといえど、カリーナほど高貴で美しい娘はおりません。皇太子殿下があのようなことになりさえしなければ、今頃この子が皇后となっておったはずですが」

 じろりと恨みのこもった目で睨まれる。

 この方が元皇太子殿下のご婚約者……。

 たしかに言われてみれば、彼女ほど優美な女性は他にいそうにない。きっと幼い頃より未来の皇后としての教育を受けてきたのだろうと、察するに余りあるほどの気品を備えている。

 きっと彼女だったら、誰しもが認めるすばらしい皇后になれたはずだわ。

 それが叶わなかったことは本当に残念なことだと思える。
 けれどそれはそれとして、あの皇太子に嫁ぐのはかなり大変なことだろうと、ひそかに思っていた。

 数年前、たまたま皇太子に挨拶をする機会があった。昼日中だというのに、皇太子は複数の女性を侍らせながらお酒を飲んでいた。

 その頃の帝国は、隣国との戦争が泥沼化し始めており、市井では物価が上がり市民の生活は苦しくなる一方だった。
 弟であるルナルド皇子は自ら指揮を執るべく戦地に向かったというのに、次期皇帝である彼は、まるで関係ないかのように遊興にふけっている。

 あのとき私も誘われかけたが、一緒にいた教皇様が殿下を止めてくださったので事なきを得た。
 それが皇太子に謁見した最後だった。

 私だったらあんな女癖の悪い夫なんて遠慮したい。
 だけど何が幸せかはその人自身が決めるものだ。目の前の美しい令嬢の幸せが何かは私にはわからない。

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