黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
皇后の部屋に入ってすぐに俺が見たのは、ベッドで眠る大聖女だった。
朝露をのせた葉のようにキラキラと輝いていた緑の瞳は、長いまつげとまぶたに覆われている。ほんのりと色づいていた頬もチェリーのような唇も今は青白く、生命力が感じられない。
数時間前とは驚くほど違う姿に、背筋がぞっと寒くなった。
「いったいどういうことだ」
怒りを抑えて低い声で問う。ここに来るまでに従者から受けた説明では、皇后は自室の床に倒れた状態で見つかったそうだ。
声を荒げたわけでもないのに、その場の全員が震えあがるのが伝わってくる。そんな中、ひとりの女性が一歩前に出た。
「申し訳ございません! わたくしが皇后様のおそばを離れたばかりに……」
確かこの侍女は、皇后付きの侍女頭でエルマという名前だったはずだ。常に皇后のそばにいるのが役目のはずなのに、いったいどうしてかと問う。
するとエルマは皇后の夜の仕度が押していたため、自分も入浴の準備に追われていたのだと答えた。
「他の者はだれもそばにいなかったのか」
皆がそれぞれ頭を横に振る。
思わずこぶしをグッと握った。
いついかなるときも皇后を守るべき侍女やメイドが、いっときでも彼女を独りきりにしたことが許せない。
けれど一番許せないのは俺自身だ。もう少し早く彼女の元を訪れてさえいれば、こんなことにならなかっただろうに。
「彼女はいつ目覚める」
「わかりません。ひと通り診察いたしましたが、皇后様に目立った外傷はなく、その場にあった飲食物に毒は出ませんでした。何かの拍子にお倒れになり頭を打った可能性もあるかと思いましたが、その形跡もございません」
「原因不明ということか」
黙ってうなずいた宮廷医に、頭がくらりとした。