黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 よく見たら寝台に見覚えもなく、眠る前の記憶があいまいで、「うーん」と首をひねったとき。

「起きたのか」

 真後ろから聞こえた声に慌てて振り返ると、気だるげな顔をした陛下と目が合った。

「へ、へーか!」

 驚いて飛び起きると、陛下は肘枕でじっとこちらを見つめる。

「おまえは何者だ。名前は?」

 低い声に背中がひやりとする。

「わ、私はオ……っ」

『オディリアです』と続けたいのに、名前を口にしようとすると喉を絞められているかのように息苦しくなる。そういえば、昨夜は陛下に名前を言おうとしたところで呼吸ができなくなり、意識を失ったのだった。

 これはきっと、なんらかの制約がかかっているんだわ。

 これまで体から精神が分離したという話は聞いたことがない。
 けれど本体を女神の力で覆われていることと合わせて(かんが)みるに、自分の命を守るため無意識に癒しの力を発動させた可能性が高い。その代償が幼児化であり正体を明かせないと考えれば、腑に落ちる。

「わかりま……せん」

 自然と声が尻すぼみになる。

「じゃあ質問を変えよう。おまえの親は誰だ。どこにいる」
「親……」

 もしかしたら『養父は教皇様だ』と言えば、私がオディリアだとわかってもらえるかもしれない。そう思って口を開きかけたが、途端喉に圧迫感を覚えた。

 それもだめなのね……。

 うつむいてかぶりを振りながらさっきと同じ答えを返すと、陛下が眉をひそめた。
 身元不明の者を、陛下がいつまでもそばに置いておいてくれるわけがない。
 
 どうしよう……このままでは追い出されてしまう……。

 本体からあまり長時間離れるのはよくないと、本能的に感じている。いざというときのためにもできるだけそばにいたい。

 なんて言ったらここに置いてもらえるの?

 下手をすれば怒らせてしまうかもしれない。降って湧いた幼女を放り出すことなど、皇帝にはたやすいことだ。

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