黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
「本当に皇帝はこんなとこまで来るのか?」
「ええ。あなた達がちゃんとあの紙を置いてきたのならね」
「ああ、もちろんさ。皇帝ひとりでここまで来いってやつだろう」
「ええ、そう。皇帝を殺すための準備も整っているわ」

 全身の血の気が引いた。
 私を使って陛下をおびき出すつもりなの⁉

 このままでは自分だけでなく陛下にまで危険が及んでしまう。

 お願い、陛下……来ないで。

 カツカツと足音が近づいてくる。慌てて顔を伏せて寝たままを装った。

「この女のせいよ」

 憎々しげに吐き出された声は、間違いなくエルマのものだ。

「何が大聖女よ!」

 次の瞬間、バチンと大きな音と共に本体が揺れた。 
 一瞬起こったのかわからなかった。二度三度続けてバチンバチンとする音に、エルマがオディリアを叩いているのだと気づく。

 やめて! 
 そう叫びたいのに口を開くことができない。私が目を覚ましていることに気づかれたら、きっとすぐに殺されてしまう。助けを呼ぶチャンスを自ら潰してしまうわけにはいかない。

 叩かれているのはこの体ではないのに、音がするたびに痛みに襲われる気がする。

「あんたさえちゃんと役目を果たしていれば、あの方はっ!」

 衝撃に備えてぎゅっと目を閉じた。

「それくらいにしとけよ」
 男の声にエルマが私を叩く音が止まる。

(つら)に傷が入ると売値が下がるから傷つけんなって、あんたが言ったんだろ」
「……そうだったわね。皇帝を殺ったらこの女は金貨に換えてやる。大聖女の皇后が奴隷に転落なんて、最高に最低じゃない!」

「きゃはははははっ」と狂ったような甲高い声が部屋に響きわたった。そして笑い声と入れ替わるようにして、男の粘っこい声がする。

「傷さえつけなきゃ好きにしていいんだよな?」
「ええ。殺さない程度にね。この女の仕事はこれからよ」

 エルマの足が遠ざかっていき、蝶番のきしむ音がしてからバタンとドアが閉まった。

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