黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 嘘でしょう……。 

 頭が混乱して耳に入った情報がうまく処理できない。ただ全身がカタカタと小刻みに震えている。

「あんたもかわいそうだな。あんな女に恨みを買ったばかりに、大聖女で皇后になったとこから奴隷に()ちるなんてな」

 嘲笑を含んだ男の声に、寒気が増す。

 やっぱり聞き違えなんかじゃなかったんだわ。エルマは陛下を殺して、私を奴隷にするつもりなのよ。
 私が彼女にいったい何をしたって言うの? 

 エルマの恨みを買うようなことなんてした覚えは一度もない。身ひとつで王宮に嫁いで来てからというもの、ずっとお世話になりっぱなしだったのは事実だけれど、それでもこんな仕打ちを受けるようなことはしていない。
 私なりに彼女には感謝を伝えてきたつもりだったのに……。
 
 しかも私だけではなく、陛下に対しても強い怨恨を抱いているようだ。

 エルマはいったい何者なの?

 ゲーベル伯爵の姪だとは聞いている。彼女の父親だった先代伯爵が不慮の事故で亡くなり、嫡子がなかったため彼女の叔父が爵位を継いだそうだ。そこでエルマ自身は叔父の元には行かず、王宮に出仕することに決めたという。

 つらい出来事を乗り越えて皇后の侍女頭になった彼女のことを、尊敬こそしても、見くだしたことはない。むしろ生粋の令嬢の出自をまぶしく感じていたくらいだ。
 王宮のことはすべて彼女から教わるくらいのつもりで頼りにしていたので、それほど恨まれていたとは思わなかった。

 自分で思っていたよりショックが大きくて、呆然としていると視界の端に男の手が延びてくるのが見えた。

 私が起きているって気づかれたの⁉

 ぎゅっと目をつむったが、痛みも衝撃もない。

「皇帝とやらが来るまでの間、せいぜい楽しませてもらおうか」

 聞こえた言葉に薄目を開けたら、やせ形の男がオディリアに馬乗りになっていた。その手はドレスの襟を大きく開いている。

「やめて!」

 気づいたときには男に向かって思いきり体当たりしていた。

「このガキ! 起きていやがったのか!」

 不意を食らった男は本体の上から転げ落ちたものの、すぐさまこちらに向かって手を伸ばし、背中をつかまれ投げられた。

「きゃあ!」

 尻もちをついたところにもうひとりの筋肉質な男がやってくる。私の二の腕をつかんでそのまま宙づりにした。

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