黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
「この子を殺されたくなかったら、その剣を捨てなさい」
「へーかっだめ!」
「うるさい!」

 反射的に叫んだら、エルマに短剣を押しつけられた。刃が皮膚に食い込む感触にゾワッと全身が粟立つ。

「ロゼ!」

 陛下が足を一歩踏み出そうとしたが、エルマが即座に「動くな!」とけん制する。

「下手な動きを見せたらこの子がどうなるかわからないわよ。うらやましいくらいに皮膚が薄くて柔らかい肌。ちょっと力が入っただけでも脈に触れてしまいそうで怖いわあ」

 ふふふと笑ったエルマにこれまで感じたことのない恐怖を抱いた。彼女が持っている短剣をすばやく引けば、いともたやすく私の命は終わってしまう。

「おまえ……」
「わかったらさっさと剣を置きなさい!」

 エルマの怒声に陛下は剣を放り投げた。ゴトンと重い音が床に響く。

「そこにひざまずきなさい」

 陛下は黙って両膝を床につける。エルマの甲高い笑い声が部屋中に響いた。

「すべてはおまえが仕組んだことだったのか」
「そうよ? 今頃気づいたの? でも誤算だったわ。皇后はあの毒で死ぬはずだったのに。さすがは大聖女、とでも言っておこうかしら」

 毒? でも陛下の調査では、私が口にしたものに毒は入っていなかったという結果だったはずだ。それなのにどうして……。

「毒が出なかったのに、とでも言いたいみたいね。それはそうよ。毒を入れたのはお茶じゃないわ」
「いったいどういうことだ」

 エルマが得意そうに鼻を鳴らした。

「棘よ。あんたが皇后に贈ったバラの棘に仕込んだの」

 あ、と思った。私はお茶を飲む直前、バラの棘を指に刺したのだ。血を止めるために指を口に入れたことまで覚えている。

「一か八かの賭けだったわ。皇后がバラに触らなければ何も起こらないでしょう? でもきっと触ると思ったの。だってその女は、三か月間あんたが来るのをずっと心待ちにしていたのだもの。そんな相手から贈られたバラに触れずにはいられないでしょうね」

 この三か月間ずっとそばで私を見てきたエルマだからこそ思いつく方法だ。
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