黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 私に寄り添ってくれるふりをしながら、日々虎視眈々と私を殺す計画を立てていたのだと思うと、背筋が凍りつくほど恐ろしく感じる。

「だから皇后が死んだとしたらあんたのせい。あんたみたいな死神の嫁になったから当然の報いよ!」
「陛下は死神なんかじゃない!」

 とっさに叫んでいた。

「うるさい!」
「い……っ」

 首すじに短剣が食い込み、一瞬で熱くなった。タラリと血が伝う感触に、全身から血の気が引く。

「ロゼを放せ。そいつは俺にも皇后にも関係ない。ただの子どもだ」 
「それなら代わりに皇后をこちらに渡しなさい」

 陛下は微動だにせず、黙ったままエルマを睨みつけている。

「あら、できないの? 冷酷だこと。たかが幼子ひとり、死のうが構わないわよねえ」

 聞こえてくる声の醜悪さに、奥歯を噛みしめた。彼女の本性が見抜けなかった自分の未熟さが悔しくてたまらない。
 陛下もきつく眉根を寄せている。きっとオディリアと私を天秤にかけた結果に、良心の呵責を感じているのだ。
 大聖女の皇后と、ただの幼女。迷うまでもない。それがわかっていて陛下に罪悪感を抱かせたいがためだけに、エルマは交換を持ちかけたのだ。

「ひどい」

 思わず口からこぼれ出た。呆然とする私にエルマが楽しげに笑う。

「あら、知らなかった? この男は無慈悲で残忍な男なのよ。あんたもひどい男にかかわったのが運の尽きだったと思いなさい」

 エルマの自分勝手な言い分に、体の奥から沸々と怒りが込み上げてくる。

「ひどいのはあなたよ、エルマ」
「なっ……」
「いったい陛下や皇后になんの恨みがあるっていうの? あなたは侍女頭としてきちんとした待遇を受けていたはず。それなのに恨みを抱く理由がわからないわ」

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