黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 瞬間、体が発火したかのように熱くなる。空っぽだった器になみなみと注がれているかのように、体中に力がみなぎってくる。急いで陛下のそばに膝をついた。

「陛下、死なないで」

 傷の上に両手をかざす。途端、手のひらが熱くなった。陛下の傷口がじわじわと閉じていく。
 血は止まったけれど、ここまでにかなりの出血があったはずだ。傷口をふさぐだけではまだ安心できない。さっきまで体中を満たしていた神聖力があっという間になくなっていくのを感じる。

 この神聖力を使いきったらどうなるのか――。

『下手をしたら、命を落としかねませんよ』

 わかっています。それでも私は――。

「〝命の息吹に女神の祝福を〟」

 口にした瞬間、まばゆい閃光に包まれた。

 光がだんだんと小さくなる。陛下が眉を寄せてまつげを震わせた、ゆっくりとまぶたが持ち上がる。

「へーか!」
「俺は……生きているのか」

 信じられない、という顔でつぶやいた陛下に、私は涙をこらえながら精いっぱいうなずく。

「ウォンッ!」

 フェンリルの鳴き声にぱっと顔を上げると、エルマが逃げようとしていた。私がこの状況を説明しようと口を開くより早く、陛下が剣を手に取る。瞬時に飛び出した。目にもとまらぬ速さでエルマの元まで到達すると、剣を振り下ろした。

「うわああっ」

 男の叫び声が響いた。

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