黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 陛下はあっという間にエルマ達を戦闘不能にした。今にも殺してしまいそうな勢いだったけれど、そうはしなかった。気を失っているふたりと足を斬られた男を、まとめてフェンリルが入っていた檻へ放り込んだのだ。
フェンリルはその様子に満足したのか、空いた窓から去っていった。

 心の底からほっとした私は、全身から力が抜けてへなへなとその場に座り込んだ。
 けれどすぐに自分の体が薄くなっていくことに気づく。
 
 ああ、私、これで終わるのね。
 
 ありったけの神聖力を陛下に注いだ自覚はある。力を失った私が行きつく先はひとつだけだ。
  
 やっと自分の気持ちに気づいたのに……。

 自分の命と引き換えにしてでも、陛下には生きていてほしかった。彼の幸せのためならなんでもできる。願はくは隣にいて彼を支えていきたかったけれど、それはもう叶いそうにない。
 聖女の役目とか、帝国の安寧とか。そんなことは一切関係なく、ルナルド・ウィーザーというひとりの男性と、一生を共に歩みたかった。
 だけど後悔はしていない。陛下が生きていてくれるのならそれでいい。

 後ろを振り返ると、眠っている自分の体がある。生きているとは到底思えないほど肌は青白い。精気のない顔に触れたら、中に引き込まれる感覚がした。

「最期は一緒なのね」

 透けた手のひら越しに見えるオディリアにつぶやく。自分の体がキラキラと輝く光の粉になりながら、その中へ吸い込まれていくのを感じた。

「ロゼ!」

 大きな声で呼ばれて振り返った。見たこともないほど焦った表情の陛下がこちらへ駆けよってくる。
 陛下に向かって伸ばした手が、指先から光の粒となり消えていく。

「さよう……なら……へーか」

 視界がグニャリと歪み、意識が途切れた。




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