黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
「……リア! オディリア!」
耳元で何度も呼ばれ、意識が浮上した。
「オディリア!」
重いまぶたを持ち上げたら、陛下の顔がすぐそこにあった。
「私……」
死んだのではなかったの?
口の中がかさついて、うまくしゃべれない。喉だけでなく、どこもかしこも干からびているようで、自分の中に生命力というものがもうほどんど残っていないのを知る。目を覚ましたのが不思議なくらいだ。
きっと女神様がお別れをする猶予をくださったんだわ。
「陛……下」
「しゃべるな。今聖女隊がこっちに向かっているから、それまでどうにか耐えてくれ」
陛下は私の頬に手を当てた。さらりとした触感が心地よく、もう一度まぶたを閉じかける。が、聞こえた言葉に目を見張った。
「ロゼはおまえだったのだろう? すぐに気づいてやれずにすまなかった」
「え……」
「最初にロゼのことが気になったのは、ツルレイシが苦手なところだった。どんなものでも感謝して食べようという姿勢に、ふたりの共通点を感じたんだ」
あんなころから?
陛下の洞察力には感心するばかりだけれど、少しくらい似通ったところがあったくらいで、いきなり現れた幼女をかわいがってくれたのが不思議でならない。
「自分でも、なぜ初めて会った幼女にこれほど興味を引かれるのかわからなかったが、一緒にいるだけで癒される。食事がおいしく感じ、夜もよく眠れるようになった。子どもを見てかわいいと思ったことは一度もなかったが、ロゼのことは心底いとおしいと思えた。もし親が見つからなければこのまま自分の養女に迎えようかと考えていた」
ロゼのことをそんなふうに思ってくれていたなんて、全然知らなかった。
でもそれでいくと、陛下はロゼとオディリアが同一人物だとはまだ思っていなかったはずだ。そうでなければ『親が見つからなければ養女に』とは考えないはずだ。
「けれどついさっき、すべてが繋がった。ロゼとおまえが同じ人物だとわかったからな」
「つい……さっき?」
切れ切れに尋ねると、陛下が「ああ」とうなずく。
「さっき、エルマに刺されて意識が薄れていた中で、ロゼの口からおまえと同じ呪文が聞こえた」
「あ……」