最期の晩餐
 楠木さんは、箸でハンバーグを小さく切って口に入れると、ゆっくりと咀嚼し始めた。

 そろそろ吐き出すタイミングかな? と後ろを向こうとした時、

「ゴホゴホゴホゴホ……‼」

 楠木さんが盛大にむせた。

「大丈夫⁉ 吐き出して‼ 後ろ向くって約束破ってゴメンだけど‼」

 即座に楠木さんの口元に吐き出し用の袋を当て、楠木さんの背中を摩る。

 ハンバーグを吐き出し、呼吸を整えた楠木さんが、

「……大丈夫大丈夫。ゴメン。久々のハンバーグに感動しちゃって、涙出そうになっちゃって、洟も出てきそうで、啜り上げたらハンバーグが喉の方に入ってきちゃって……」

 喉に手を当てながら笑った。

「焦ったー」

 一気に上がった心拍数を押さえようと、胸に手を当てる私に、

「死ぬかと思った? 死なないよ。少なくとも、ななみんと彼氏の今日の結果を聞くまでは死んでたまるか」

 楠木さんがいたずらっ子のような笑顔を向けた。

「……分かってるよー」

 楽しい話し合いにならないことが分かりきっているから、気が重くて重くて仕方がない。

「分かってるならいいよ。しかし、やっぱハンバーグは美味しいね。味は勿論いいとして、この食感‼ ゼリーばっかり食べてたから、この肉の歯ざわり、たまらん‼」

 気重な私とは反対に、ハンバーグにより英気が養われた楠木さんは、ご機嫌に箸を進める。一度吐き出すところを見られたら、もうどうでも良くなったのか、私の前で堂々と噛み出しする楠木さん。気持ちの切り替えの早さに驚きつつも、楠木さんの喜ぶ顔に私まで嬉しくなった。
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