最期の晩餐
「隼人だってしっかり応えてたじゃん。この前、亜子さんの髪を撫でながら抱きしめてるところ、しっかり見たし。亜子さんだって、今も隼人のことが好きなんでしょ? だから隼人に会いに来てるんでしょ? わざわざ私が来る日を狙って、厭らしい。本当に辛くて泣いてるのかも疑わしいわ。隼人の気を引く為としか思えないわ」

 嫌味ばかりを放っていた私の口は、終いに隼人の元カノの悪口まで話し出してしまった。どんどん自分が嫌な奴になっていくのが、ほとほと嫌になる。

「泣いてる人をそんな風に言うのは、ちょっとあんまりだよ、奈々未」

 だから、隼人だって私に嫌気が差す。

「それに俺、亜子の髪撫でた? 全く覚えてないけど、本当にやってたとしたら無意識だった。多分、亜子と付き合ってた頃の癖だと思う」

 隼人は『だから、深い意味なんかないよ』とでも言いたいのだろう。この世に、昔の彼女に行っていた癖を見せられて、気分を害さない女がいるはずがない。

「……あのさ。私が仕事で悩んだ時、隼人じゃなくて料理長の林田さんに泣きながら抱きついても、隼人は『俺は奈々未の仕事のことはよく分からないから、仕方ないな』って許せる?」

 私が林田さんに抱きつくこと絶対に有り得ない。冷静な時なら、言いながら笑ってしまったであろう仮定の話も、頭に血が上っている今なら真顔で話せてしまう。
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