最期の晩餐
「…………」

 無言を決め込み、隼人をシカトして歩き続ける私の前に、

「無視しないで‼ 話しようよ‼」

 隼人が両手を広げて立ちはだかった。

「……今日は急に来たわけじゃないじゃん。ちゃんと連絡してから来たじゃん。私が来るって分かっててやるってことはさ、私に見せたかったからだよね?」

 怒りと悲しみが同時に襲ってきて、頭痛を引き起こし、眼球まで熱くなるから、涙が出てきそうになってしまう。

「だから断った。今日は来ないでって亜子にはちゃんと言った」

「今日は無理だけど、明日ならいいよ。的な?」

 隼人のよく分からない言い訳に呆れて、乾いた笑いが漏れた。

「違うよ‼ 亜子には『彼女の誤解が解けるまで会えないよ』って言ったのに、来ちゃって……」

 私のせいで会えないと説明していた隼人に、悪寒が走る。

「ちゃんと言っておいたのに来ちゃったから、抱き合っちゃったわけだ。じゅあ、仕方ないね」

 そんな隼人とちゃんと話す気になど、なるはずがない。

「抱き合ってない‼ 亜子が泣きながら抱きついてきただけで……」

「隼人はただ、抱きとめただけだもんね。抱きつく女性を抱きとめないなんて、男として間違っているんだとしたら、隼人のしたことは正しいんだと思うよ。うん。隼人は悪くないね。全然悪くない」

 わざと笑顔を作ってみせたが、私の目はきっと、というか絶対に全然笑っていないだろう。
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