最期の晩餐
「……それは、嫌だ」

「だよね」

「でも、抱き合っただけで本当に疚しいことは何もしてないから‼」

 抱き合っていたことが黒だと指摘されているのに、潔白を主張する隼人。

「もし私が現れなかったら、抱き合った後にどうしてた? アパートの前で抱き合ってたら、生徒や父兄に見られるかもしれないよ? ふたりで隼人の部屋に入ってたんじゃないのかな」

「それは……」

 隼人の言葉が続かなくなった。それは、きっと亜子さんを部屋に招いて、そうなっていただろうということだ。

「泣いてるあの子の元に戻りなよ。泣いてない私には、どんなに嫌な思いをさせても平気でしょ? だって、泣いてないんだから」

 泣いて堪るかと奥歯を噛みしめるが、

「隼人は、隼人のお母さんの豚の角煮を作れないあの子と、末永く幸せに暮らせばいいよ」

 捨て台詞を吐いた後、

「……ウチラ、もうダメだ」

 瞬きと同時に涙が零れてしまった。堪えきれなかった。

 私の涙を見て、隼人も泣きそうな顔になった。私に何か言いた気なのに、言葉が出てこない様子の隼人に、

「バイバイ」

 背中を向けた。突き当りまで歩き、角を曲がったところでしゃがみ込む。

「……うぅ……」

 涙が溢れて止まらない。

 別れようと思ってなかったのに。【許せないけど別れない】予定だったのに。

「別れちゃったよ、楠木さん」

 これだけ泣けば、きっと目は腫れる。明日、何も言わずとも、楠木さんは多分私の顔を見ただけで全てを察してくれるだろう。
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