最期の晩餐
「今日も一日頑張りましょう‼」

 美知さんに、とんでもなく引き攣った笑顔を向ける。目には今にも零れ落ちそうなほどに涙が溜まる。泣くことは堪えられても、涙目を我慢するスキルは、私にはなかった。

「ごめんね、奈々未。辛い仕事に引っ張り込んでごめん」

 美知さんが私を抱き寄せ、背中を摩った。

「勘弁してくださいよ。こんなことされたら、泣いちゃうじゃないですか。私、泣くと長いから、やめてくださいよ。それに私、この仕事大好きなのに、『ごめん』とか言わないでもらえますかね」

本当は美知さんの肩を借りて泣いてしまいたかった。でも、ここで泣いたら仕事が出来なくなってしまう。だから、ゆっくり美知さんの肩を押して離れた。

「大丈夫ですから‼ 本当に大丈夫‼」

 もう一度ぐっちゃぐちゃな笑顔を作り、パソコンを立ち上げて事務処理に取り掛かった。仕事に集中することで、辛さを忘れたかったから。

 こんなボロボロな精神状態なのに、普通に仕事が出来た。でも、いつものように美知さんと冗談を言い合ったりしたりは出来なくて、一切口を開かずに、黙々と働く。

 伝票整理を終え、朝食・昼食作りの為に調理室に移動しても、私の口は動かない。喋りたくないというより、喋る気力がない。
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