最期の晩餐
 楠木さんが亡くなったことは、もちろん林田さんも森山さんも知っている為、「今日はそっとしておこう」と私に話し掛けてこない。

お喋りでいつも騒がしい私が何も喋らないから、『冷蔵庫の音ってこんなに大きかったっけ?』と思うほどに、今日の調理室は静かだ。

いつもなら、十時くらいにお腹が鳴るのに、お昼になってもお腹は減らず、空腹にならないままお昼休みになった。

今日の賄いは滅茶苦茶美味しそうな山掛けうどんだった。多分、林田さんが気を遣って、スルスル食べられそうなメニューにしてくれたのだと思う。

いつもなら余裕で食べきり、おかわりを催促するであろう林田さんの山掛けうどんに、全く箸が進まない。箸を持ったまま動かずにうどんを見つめ続けていると、

「なーんか今日は、食欲が止まらないわ。奈々未ちゃんの分も貰っちゃお」

 森山さんが、私のうどんの器を自分の方に寄せた。場の空気を悪くしない為に、【私が落ち込んで食べられない】のではなく、【森山さんが空腹すぎて私の分に手を出した】ように振舞ってくれたのだ。なのに、

「……やっぱりさ、患者さんとの向き合い方、少し考えた方が良いんじゃない? 今後もご飯が食べられなくなるようなことがあるとちょっとさ……」

 遂に美知さんに、言ってほしくない言葉を言われてしまった。
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