【ピュア青春BL】幼なじみの君と、ずっとミニトマトを育てたい。

6.由希視点*僕の知らない律くん

 遅刻ギリギリだった時とは違い、バスから降りてもゆっくりと歩けるから気持ちにもゆとりができた。

 律くんと一緒に通学できるようになったのは、数日前の会話がきっかけだった。



 花の苗を買った時にもらったモンキーバナナがなくなってからも律くんは買い足していて、常に律くんの部屋にバナナがある状況になっていた。僕もバナナを食べるという口実があったから、律くんの部屋に気軽に遊びに行けるようになっていた。無彩色を基本とした部屋の中にある黄色だからか、僕たちを繋げてくれている食べ物だからか分からないけれど、黒いローテーブルの上にあるバナナはいつも柔らかい光に囲まれ、輝いて見えていた。

 平日の、自分の家で夜ご飯を食べたあとにデザートとしてバナナを律くんの家で食べていた時だった。

「もしかして、由希くんがギリギリの時間に登校してるのって、俺が始発のバスに乗ってるから?」と、律くんはバナナを一緒に食べながら単刀直入に聞いてきた。

「ち、違うよ」
「気まずかったら俺、自転車で行くから由希くんだけ始発のバスに乗りな?」
「でも、律くんも自転車が疲れるからバスで通ってるんでしょ?」
「いや、俺はそういうわけではなくて――」

 律くんの瞳が揺れる。

 続きを何か言いたげな雰囲気だったけれど、途中で律くんは言葉を止めた。律くんはなかなか本音を教えてくれない。でもそれは、僕も同じか……。本当の気持ちを少しずつでもいいから伝えた方が、仲良くいられるのかな。

 誤解ですれ違うのは、もう嫌だな――。

「始発の時間のバスに、い、一緒に乗りたいです」

 顔を合わせて言うとドキドキが増しちゃうから僕は目をギュッと閉じながら気持ちを伝えた。律くんは今、どんな顔をしているんだろうと、薄目で確認した。

 ぽかんとしているような、呆気にとられているような。何とも言えない表情だ。

「じゃあ、一緒に行こう? 一緒の時間に乗ったら由希くんは朝、急がなくてもいいよな」

 表情は曖昧だったけど、声はいつもよりも弾んでいた。そうだった、律くんは昔から表情や気持ちを表面に出すのが苦手で、クールに見られている。それでいて王子と呼ばれるぐらいに外見も整っていたから、中学生の頃に律くんが上級生に生意気だと喧嘩を売られたという噂も聞いていた。多分それは嫉妬で、華やかで目立つのも大変なんだなと、律くんをそっと心配していた。

ふと、思う。律くんに嫌われたと思って離れていた期間も、律くんの僕に対する視線とか態度とかが冷たいと全てを悪い方向に感じてしまっていたなと。だから、良い方向に考えるのも大事なのかな。

――もしかしたら、一緒に行くこと喜んでくれている?

 期待しすぎもあれだけど。



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