【ピュア青春BL】幼なじみの君と、ずっとミニトマトを育てたい。
 呼ぶと由希くんは振り向いた。顔を手でぱっと隠しながら立ち上がり、どこかに逃げようとしているようだ。俺は全力で走り追いつくと、由希くんの手首をぎゅっと握った。

「由希くん、トマト嫌いなことを隠していて本当にごめん……もう、逃げないで。由希くんと離れたくない――」

 由希くんは振り向くと、目を合わせてくれた。眉間にシワをよせ口元も八の字になっている。そして目が赤い。

「由希くん、また泣かせちゃった……俺、由希くんと関わらない方がいいのかな」

 由希くんは何も答えてくれない。

「俺は、由希くんの隣にいたいけど、もう……」

 握っていた由希くんの手首を離し、一歩後ずさる。

「本当に、ごめん……。実は、トマトは小さい頃から苦手で。あの酸っぱさとか感触とか……だけど由希くんと一緒に育てているトマトは食べたいって、本当に思ってた――」

 微動だにしない由希くん。

――あぁ、もう、完全に駄目だ。

 俺は由希くんに背を向け、班のメンバーがいるところに戻ろうとした。その時、Tシャツの背中部分を由希くんにギュッと掴まれた。振り向くと上目遣いで困ったような表情をしている由希くんに見つめられていた。

「律くん、行かないで――」

 その仕草、表情、声。俺の五感は全て由希くんに集中する。ドキッとして倒れてしまいそうなくらいに胸の鼓動が早くなる。由希くんに行かないでなんて言われたら、絶対にどこにも行けない。行けるわけがない。

「由希、くん?」

 由希くんに魔法を掛けられたように、俺の足は地面に張り付き動けなくなった。しばらく俺たちだけが、時間が止まったように動かなかった。

「律くん、ついてきて?」

 由希くんは少し強い声でそう言い、俺の手を掴んだ。
 手から由希くんの温もりが伝わる。そしてその温もりは全身へ巡り、緊張と心地良さが同時に体全体を覆う。

 そのまま由希くんにされるがまま、手を引っ張られていく。

< 67 / 105 >

この作品をシェア

pagetop