冴えなかった元彼が、王子様になって帰ってきた。
【第二話:落ちぶれた私と、王子様になった君】

***


 就業時間が九時から十七時の総務部は、終業間際になるとほとんどの社員が帰り支度を始める。

 『明日でもできる仕事は明日しましょう』というのが総務部の白神部長の口癖らしく、部下達が気兼ねなく帰れるよう部長はいつも定時になるとオフィスを出てどこか違う場所で仕事をし始めるのだという。


 「お疲れ、奥畑ちゃん」

 「初日、大変だったでしょ〜!今日はゆっくりしてね」

 「このドリンク、元気出るから一本あげるよ。お肌にもいいらしい」

 悠里にとって初めての転職で、まだ右も左も分からない場所で長かった初日を終えようとしていたとき。

 真紀子や奈美達先輩四人組は、一生懸命な彼女の元へ労いにやってきた。


 「お疲れ様です。みなさんがいつも気遣ってくださるのでとても充実した初日になりました。ありがとうございました」

 「奥畑ちゃん、どう?そろそろ終われそう?」

 「はい、大丈夫そうです。ただ、一度このデータを確認していただきたいので、仁科さんのメールにお送りしてもよろしいですか?」

 「うん、いいよ!適当に投げておいてくれる?明日朝イチで確認するね!」

 「お願いいたします」

 そんな優しい先輩達に囲まれながら、悠里も帰り支度をするべく午後から打ち込んでいたデータを保存し、真紀子のメールに投げたあと、そっとパソコンの電源を落とした。

 今日は確かに気疲れもしたし、とにかく覚えることばかりで大変な一日だった、と悠里は小さく息を吐き捨てながら鞄を手に取る。


 「(そういえば、このあと理人くんと約束があるんだった)」

 左手につけている腕時計は、定時からまだそんなに時間は経過していない。

 理人のほうは大丈夫なのだろうか。そもそも連絡先も分からないし、どこで待っていればいいんだろう。

 悠里の心の中でそんな疑問が出てきたときだった。



 「──やだ、王子じゃん!」

 「理人くん、やっぱいつ見ても目の保養だわぁ」

 「丹波さんって今度テレビ出演も控えてるんでしょ?広報部の人が言ってたんだよね」

 突然、桁違いに騒がしくなったフロアに何事かと目をやると、そこにいたのは理人だった。

 『今度飯でも行こうぜ?』と理人に声をかける男性社員や、遠目からうっとり見つめる女性社員達に、理人は多少困惑した様子を見せながらも難なくコミュニケーションを図る彼の姿を見て、悠里の目には高校時代の〝元彼〟とはまるで別人のように映っていた。


 「あ、奥畑ちゃん見て!あれが王子!うちの会社の王子様だよ!名前は丹波理人くんね!覚えて帰ってね!」

 「真紀子、王子のことになるとテンションおかしくなってるよ」

 「こんな時間にうちの部署になんの用なんだろうね」

 真紀子達が王子の登場に首を傾げている隣で、悠里は内心ドキドキしていた。

 自分の思い違いでなければ、きっと理人が総務部へ来た理由はただ一つ──……。





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