チャラい社長は私が教育して差し上げます!
「彼は、T工大を出てるのよ? しかも、偏差値的にはT大も軽いのに、敢えてT工大を受けたのよ。機械が好きだから」

「またまたあ、冗談ばっかり。T工大もT大も、国立の超難関大学だよ?あの社長に限って、そんな事は…… 」

「私が、そんなつまらない冗談を言うと思う?」

恵子は真面目な顔でそう言った。という事は……

「えーっ、嘘でしょ。信じられなーい!」

”人は見かけによらない”とは、正にこの事だわ。

お刺身が来たので、2人とも小皿にお醤油を垂らし、ワサビをそこに溶かした。そしてマグロを一切れ食べたけど、たぶん中トロで、脂が乗ってて美味しかった。

「彼の前のポストは知ってるの?」
「知ってるよ。開発部のチーフマネジャーでしょ?」

「うちの社の車で、凄いスポーツカーがあるの知ってる?」

「知ってるよ。"R2020"でしょ? 走ってるのは見た事ないけど」

「あれ、売れてないからね。あの車を開発したのが、神徳さんがいたチームなのよ。その功績で、彼はチーフマネジャーに昇格したわけ」

「ふーん、そうなんだあ」

あ、このイカのお刺身、結構美味しいわ。

「なんで反応が薄いのよ?」
「だって、チームでしょ? みんなの成果であって、それで神徳さんが優秀って事にはならないでしょ?」

「舞は甘いわ。このイカより甘い」

イカと比較されてもよく解らないよ。

「あのスポーツカーのエンジンは、神徳さんが一人で開発したようなもので、業界ではそのエンジンも、それを開発した神徳さんも、評価はすごく高いの。彼は”M社の天才エンジニア”って呼ばれてて、業界では有名なのよ?」

「あの人って、そんなに凄いの?」
「うん。嘘だと思ったら、業界誌を読んでみて?」

それはびっくりだけど、なおさら謎が増えた気がした。

「恵子って、どうしてそんなに詳しいの? 総務だから?」

「総務は関係ないでしょ? 車が好きだからよ」

「奇遇だね? 私も車が好きなの」

「そう? でも天才エンジニアを知らなかったなんて、まだまだね」

「面目もありません」

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