チャラい社長は私が教育して差し上げます!
「この車、何で売れないんですかね?」

「価格が高いからさ。それと、うちの会社は営業が下手だ」

「すみません」
「なんでおまえが謝るんだよ?」

「私、秘書課に異動する前は営業部だったから」

「ああ、そういう事か。でも、営業部のせいじゃないよ。首脳陣が無能だからだ」

吐き捨てるように社長はそう言った。うちの会社がピンチなのは、そういう事なのよね……

「そう言えば、この車を開発したのは、社長のチームなんですってね?」

「ああ。やっと思い出してくれたか?」

「すみません」
「俺はエンジンの開発を任されてた。開発時のコンセプトとコードネームは知ってるか?」

「知らないです」
「だろうな。コンセプトは"邪心のないフルパワー"。コードネームは"悟空"だ」

それって、私が大好きなアニメのキャラだわ。

「孫くんですか?」
「そうだ。おまえも"通"だな。この”悟空”は、自然吸気で信じられないパワーを引っ張り出したんだ」

「じゃあ、"邪心のあるフルパワー"もあるんですか?」

「意味的にはそれにあたるエンジンがあるよ。コードネームは……」

「"ターボくん"」

「おお! 正解。よくわかったな?」

「自然吸気の逆で作者繋がりと言えば、それしかないですよ」

「確かに」

「それも社長が開発したんですか?」

「いや、先輩の(さかき)さんだ。俺はまだ駆け出しだったから」

といった話をしていて、ふと気付けば、社長は昨日と同じサングラスを掛けていた。という事は……

「社長は、昨日も『ガッちゃん』に会いに行ってたんですか?」

「おまえって、意外にユーモアがあるんだな。昨日も行ってたよ。工場に」

「ずいぶんご執心なんですね?」

「まあね。本当はずっと工場にいたいぐらいさ。なのに親父の奴は……」

「え? それはどういう意味ですか?」

「親父が俺を社長になんてするから、工場に通うはめになったって事さ」

「はあ」

何か、解るような解らないような……
そもそも、工場って、何の工場なんだろう。

隣の車の人達の、特に男性が、みんなこっちを羨望の眼差しで見ていた。私はそれが誇らしいやら、恥ずかしいやら、微妙な心持ちだった。

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