チャラい社長は私が教育して差し上げます!
午後になり、私達は社長が運転するR2020で私のアパートへ行った。

「大急ぎで荷物をまとめて来ますので」

「ゆっくりでいいよ。ただし、見ての通りあまり多くは積めないから、よろしくな?」

「はい。布団なんかは……」
「無理だ。諦めろ」

「ですよね。ボストンバッグ2つはどうですか?」

「それぐらいは大丈夫だ」
「分かりました。では、少しお待ちください」

アパートの階段を上がり、部屋のドアに鍵を差してドアを開くと、聡はいないようで私は胸を撫で下ろした。

部屋の明かりを点け、改めて見渡すと、床には聡の衣類やスナック菓子の袋なんかが散乱し、シンクには、食べたままのカップラーメンのカップが無造作に積まれていた。

聡が出て行ってくれない限り、ここがゴミ屋敷と化すのは時間の問題だと思う。

改めて私は、此処に戻るのは嫌だなと思った。

2つの大きなボストンバッグに、すぐに着る衣類を優先し、必要そうな物を次々と詰め込んだ。そして、パンパンに膨れた2つのバッグを、ひとつずつ玄関に運び、ドアを押して開くと、男の人が立っていた。

私は、一瞬聡が帰って来たのかと思い、冷っとしたけど、そこにいたのは社長だった。

「ひとつは俺が持つよ」
「ありがとうございます」

社長は、私のボストンバッグを持ってくれるために、車から降りて此処に来てくれたらしい。

R2020の後部座席に2つのバッグを積み、しばらくは戻ることのないアパートを後にした。

しばらく走った頃、

「あっ」
「どうした?」

私は、靴をバッグに入れなかった事に気が付いた。もちろん、今履いてる靴以外のだけど。

「靴を入れるのを忘れました」

と言い、私は社長の横顔に目をやった。アパートに戻ってくれたらいいな、という思いで。
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