チャラい社長は私が教育して差し上げます!
緊急経営会議に向けて
「はじめまして。総務の野田と申します」

「俺は”はじめまして”じゃないよ。総務には時々行ってたし、野田さんは美人だから目立ってたしね」

「そ、そうですか。そう言えば私も社長は何度かお見かけしました。うっかりしちゃって、すみませーん」

恵子ったら、何が”すみませーん”よ。赤い顔しちゃって。社長も社長よ。何が”美人だから”よ。中身はチャラいままね!

「お二人とも座ってください。時間が惜しいので!」

社長は、椅子に座りながら私の耳元に顔を寄せ、「何で怒ってんだよ?」と言ったので、私も社長の耳元で、「怒ってないもん!」と言い返した。そして前を向くと、恵子がきょとんとした顔でこっちを見ていた。

今の社長とのやり取りは、ちょっとまずかったかもしれない。

私は気を取り直して、

「恵子にこれをチェックしてほしいの」

と言い、持っていた紙、すなわち『緊急経営会鍵に向けて』と題したメモ書きを、恵子の前に差し出した。

「簡単に説明するわね。今、開発部では凄い新型エンジンを開発してるの。機密だから詳しくは言えないのだけど、もしそれがH社との経営統合より早く完成すれば、経営統合が白紙になるぐらい、凄い事なの。

ところが、現状では資金が足りなくて、経営統合に間に合いそうもないの。そこで緊急経営会議を招集して、予算を計上したいのだけど、その手順が私にはよく解らなくて……

思い付くままに書いたのがそのメモ書きで、それを恵子にチェックしてほしいの。恵子なら、色々と詳しいと思うから。オッケー?」

「うん、解った。ちょっと待ってね」

さっきまではポーっとした顔の恵子だったけど、今はスイッチが入ったみたいで、険しい顔付きで私が書いたメモ書きに目を落とした。
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