チャラい社長は私が教育して差し上げます!
「あ、ごめんなさい。私、いつの間にか眠ってた」

「いいって。寝不足だもんな? 俺もだが」

社長は私に顔を向け、ニヤッと笑った。

「もう……前見て運転して! 今ってどの辺り?」

「高速を降りて少し走ったところだ。到着は……10分後だ」

社長はナビを見てそう言った。私ったら、ずいぶん長いこと眠っていたらしい。

「いい感じの街並みだな。道は広いし、緑が多い」

「田舎でしょ? 今はいいけど、冬は雪が降るから大変なの」

間もなくして私の実家に着いた。駐車場に父の白い車があり、その横の、いつもは弟の(たかし)が駐めるスペースが空いていたので、そこへR2020を駐めてもらった。ちなみに隆は釣りに行ってると思う。休日はいつもそうだから。

車から降り、父の車を見る。H社のワンボックスカーだ。父は昔からH社の車が好きで、私もその傾向だったのだけど、今やH社は憎き経営統合の相手だ。ボディは悪いから、タイヤを爪先で蹴とばしてやった。

「おい、何やってんだ? 行こうよ」

「あ、うん」

「結構、大きい家だな」

社長が私の実家を見上げて言った。

「そうでもないよ。この辺じゃ普通。こっちは東京に比べたら、土地がうーんと安いから」

「そうなんだ……」

私は玄関の扉を開けた。こっちでは、昼間は施錠しないのが普通だ。

「ただいまー」

大きな声で私が言うと、パタパタとスリッパで歩く音がして、小柄な母がやって来た。ちなみに実家へは正月にも帰ってるから、あまり久しぶりという感じはしない。

「お帰りー。早かったわね」

と言った後、母は社長を見て、目をパチクリさせた。
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