チャラい社長は私が教育して差し上げます!
「こちらが電話で話した……人です」

私は照れ臭くて、”彼氏”とは言えなかったのだけど、

「はじめまして。舞さんの彼氏の、神徳直哉です」

って、社長は自己紹介した。

「舞の母です。遠いのに、わざわざすみません」

母は、私達のスリッパを揃えて置いてくれながらそう言った。そっちが来させたんでしょ?

「応接間にお通しして? 私は父さんを呼んでくるから」

「はーい」

応接間のソファに社長と並んで座っていたら、すぐに余所行きの服を着た父が来た。私達が立ち上がると、父は社長を見てギョッとしていた。

「この人が私の彼氏です」

今度は”彼氏”って言えたのだけど、父にはそれが気に入らないらしく、眉毛をピクッとさせた。

「はじめまして。神徳直哉と申します」

「舞の父です。どうぞ、お座りください」

「はい」

母はお茶を持って来て、それをそれぞれの前に置くと、父の横に座った。私と社長が並んで座り、ローテブルを挟んで向かいに両親が座る形だ。私と社長は、肩が触れ合うほど距離が近く、それでだと思うけど、父は嫌そうな顔をしていた。

「神徳さんは舞の上司さんだそうだけど、課長さんなのかしら?」

母は目をパチクリさせ、私と社長を交互に見ながらそう言った。

「田中は次長だ」

すかさず父が、なぜかドヤ顔で言った。だから、田中って誰?

「もう少し上です」

と社長が母に答えた。

「では、次長さん? お若いのに?」

と母が続けて聞くと、

「もうちょっと、上ですかね」

と社長が答えた。
このままだと、社長にたどり着くまで長いと思ったので、

「この人、社長なの」

って、私は言った。すると父は目を大きく見開き、母は、

「えーっ、嘘でしょ? 信じられなーい」

と、恵子とほぼ同じリアクションをした。
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