チャラい社長は私が教育して差し上げます!
ドタドタという足音がして、真っ黒に日焼けした弟の隆が現れた。そして、

「すげえ車が駐まってると思ったら、社長の車だったのか。って事は、姉貴の彼氏って社長なのかよ!?」

挨拶もなしにそんな事を言った。

「隆、お客様にご挨拶しなさい」

「お、おお。弟の隆です。いつも姉貴がお世話になってます」

「はじめまして。神徳直哉と言います。お姉さんには、こちらこそお世話になっております」

私は、隆の口振りが気になっていた。

「隆は、直哉さんを知ってるの?」

「当たり前だろ? 姉貴の会社の社長なんだから、顔ぐらいは知ってるさ。でも、今日の社長さんはいつもと違うような……。いつもはもっと、チャ……」

「黙って!」

隆は今、チャラいって言おうとした。間違いなく。

「俺も業界の端くれだし」

「隆は自動車のパーツ屋さんで働いてるの」

「そうなんですか。お世話になっております」

「いえいえ、そんな。俺なんか……」

「いや、我が社があるのは、皆さんのおかげですから。ところで、釣りでしたか?」

「あ、はい。よく分かりましたね?」

「臭いで分かるわよ。あんた、臭いよ」

「うるせえなあ」

「魚種は何ですか?」

直哉さんは、なぜか釣りに食い付いた。隆に釣られちゃったのかな、なんちゃって。

「へらです」

「食えない魚を釣ってるの。バカみたいでしょ?」

「うるせえ。釣りのロマンは、女には解んねえ」

「奇遇ですね。俺もへらぶな釣りはやりますよ。最近は行けてませんが」

って、社長が言った。そうなの? ちっとも知らなかった。

「そうなんですか? 社長さんとは話が合いそうだな。俺、着替えて来ますね」

「シャワーを浴びてよ?」

「わかってるよ」

隆がいなくなったら、途端に静かになった。

「ちなみに、父は将棋にハマってるの。ね?」

と父に振ると、父は嬉しそうな顔をして頷いた、のだけど、

「それも奇遇だなあ。俺も将棋にハマってる」

と社長が言った。社長って、ずいぶん多趣味なんだなあ。ちっとも知らなかった。
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