チャラい社長は私が教育して差し上げます!
「お父さんは、あの天才棋士を応援してるんだよね? 八冠の」

「今は七冠だ」

父と社長がハモった。

「俺も彼を応援してるよ。彼の将棋は凄いよ。AI超えだからな」

「社長は、去年の王座戦を観ましたか?」

「お父さん、直哉さんを”社長”って呼ぶのはやめない? 会社にいるみたいだから」

「だったら、何てお呼びすればいいんだ?」

「普通に”直哉君”でいいんじゃない。ねえ、直哉さん」

「おお、ぜひそうしてほしい。お義父さん、第3局ですよね? 八冠を達成した」

「そうそう。あれは痺れたねえ」

「はい。形勢1パーセントからの大逆転ですからね。鳥肌が立ちましたよ」

父と直哉さんは、二人の世界に入ってしまったみたいだ。

「社長、じゃなかった直哉君、一局差しませんか?」

「え? お父さんって、いわゆる”観る将”じゃないの?」

父が誰かと将棋を差すのは見た事ないと思う。父の部屋には立派な将棋盤があるけど、私はてっきり飾りだと思っていた。

「相手がいないだけだ。おまえも隆も将棋はやらないからな」

「俺も同じです。ぜひ一局、お手合わせお願いします」

という事で、父と社長はさっさと父の部屋へ行ってしまった。

直哉さんに取り残された私は、ちょっと寂しい気持ちになり、「はあー」と溜息をついた。

「舞、大金星じゃない?」
「そ、そうかな。うふ」

「幸せよね?」
「うん。すっごく、幸せ」

「だよねえ。直哉さんって、すごく素敵だもの」

そう言って、母はまたもや目をハートにした。

「なんでお母さんが赤い顔するのよ?」

「それくらい、いいでしょ? 私だって、女なんだから……」

「知らなかった」

「ま、失礼な。それはそうと、そろそろ夕飯の支度をしなくっちゃ。舞も手伝いなさい」

「はーい」
< 84 / 104 >

この作品をシェア

pagetop