社員総会から始まる物語-サプライズ企画で出会った彼は、人気スター

第十一話 「エピローグ」

 あの社員総会から約一年たった春の日。

 優香と和希は、静かに入籍を済ませた。
 挙式や披露宴はしなかった。
 騒がれずに、ごく普通の暮らしを始めることが、ふたりの願いだった。

 新居は、都内の静かな住宅街の一角。
 マンションの最上階ではないけれど、広すぎず狭すぎず、ほどよく風が通る。

 玄関には小さな観葉植物、リビングには和希が好きなアート本と、優香が集めた食器が並ぶ。

「この部屋、落ち着くな」

 ある日、コーヒーを淹れながら和希が言った。
 優香はキッチンから顔をのぞかせて、ふっと微笑んだ。

「ね。少しずつ“私たちの場所”になってる気がする」

 和希は、優香の隣に並ぶと、ふと壁を見上げた。

「……あとは、あれだな。
 この壁に飾る、ぴったりの絵を探さなきゃ」

「探しに行く?」

「うん、二人で」

   ◇◇

 週末、ふたりは小さなギャラリーをいくつか巡った。

 ようやく出会えたのは、郊外のギャラリーで偶然目にした、一枚の絵だった。

 木漏れ日の森の中。
 寄り添うように並んだ、二羽の小鳥。
 控えめな色使いと柔らかいタッチが、どこか優香と和希の今を映しているようだった。

「これ……いいな」

「うん。すごく、いい」

 二人は並んで絵を見つめていた。
 やがて和希が、そっと呟く。

「……なんかさ。
 いろいろあったけど、こうして並んで同じものを見て、
 “いいね”って言える今が、一番幸せかも」

 優香は、絵の中の小鳥たちを見つめながら、静かに頷いた。

「うん。ほんとに、そう思う」

 ギャラリーのスタッフが、後ろからそっと声をかけた。

「よろしければ、制作された画家にご挨拶されますか? 今、ちょうど奥におりますので」

 二人は顔を見合わせ、小さく笑ってうなずいた。

 ギャラリーの奥へと続く廊下の先。
 
 ふたりは、手をつないだまま、その扉へと歩いていった。

 <END>
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