【番外編】イケメン警察官に2人ごと守られて。
月明かりが、ぼんやりと床を照らしていた。
その中、ベッドの端に、小さく縮こまる影があった。

お気に入りの毛布にくるまりながら、
その下には、涼介がよく着ているグレーのパーカーを、
ぶかぶかに羽織った美香奈がいた。

──俺の、パーカー。

ぎゅっとパーカーの袖を握りしめ、
まるで、涼介を求めるように、小さく丸まっている。

その姿に、胸の奥が強く締めつけられた。

涼介は、音を立てないように近づき、
そっと、美香奈の額に手を触れた。

熱は、ない。

ほっとしながらも、
月明かりに浮かぶ頬の、乾いた涙の跡に、
胸がひりついた。

そのとき。

ぱちり、とまつ毛が揺れた。
目を開いた美香奈は、涼介に気づきながら、そっと目をそらした。

そして、かすれるような声で、「おかえり」と言った。

「……ご飯、食べたか?」

低く、そっと問いかける。
美香奈は、首を横に振った。

「……具合、悪い?」

また、首を振る。

無理に作った笑みが、痛かった。

「なんでもないよ」

その言葉を、涼介は受け取れなかった。

「……なんでもないのに、涙なんか、流さないだろ」

涼介は静かに、美香奈の頬を撫でた。
指先に、冷たい涙の跡が伝わる。

「ごめん……俺が、悪かった」

ぽつり、ぽつりと、涼介は言葉を重ねた。

「怒って……突き放して……それで、寂しい思いさせて……」

喉の奥がつまる。
だけど、必死に、美香奈に届くように。

「許してほしい」

小さな手が、毛布の隙間から伸びた。
涼介はその手を、迷わずぎゅっと包み込んだ。

ベッドに腰を下ろして、美香奈をそっと引き寄せる。
ぶかぶかのパーカーがふわりと香り、胸の奥が痛いほど愛しくなる。

わずかに震える体を、胸いっぱいに抱きしめた。

彼女の温もりが、ひりひりと心に滲んでいく。

「……寂しかった」

美香奈の声が、シャツ越しに伝わった。

「ごめん……もう、絶対に、一人にしないから」

涼介は耳元でそう囁くと、
ただひたすら、彼女を包み込んだ。

まるで、取りこぼさないように。
もう二度と、手放さないと誓うように──静かに、静かに、夜が更けていった。
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