【番外編】イケメン警察官に2人ごと守られて。
その日、美香奈は、真木弁護士に頼まれていた示談書類を抱え、警察署を訪れていた。

久しぶり一人で来る場所に、自然と肩に力が入る。
けれど、今日の用事は重要だ。胸の奥で小さく息を吸い、受付へと進んだ。

応対に出たのは、制服姿の女性警察官だった。
涼介と同じ、捜査一課のバッジが胸元に輝いている。

美香奈を見た瞬間、その女性警察官の顔がわずかに強張った。
一拍遅れて、あからさまな不快感を隠そうともせず、眉間に皺を寄せる。
その目には、瞬間、かすかな嫉妬の色がにじんだ。

「──そこに置いといてください」

突き放すような声。
冷え切った言葉が空気を一瞬で凍らせる。

カウンター越しにいる他の警察官たちは、誰もこちらに目を向けない。
まるで、ここだけ、静かに隔離された場所になったみたいだった。

美香奈は、言われた通り、そっと書類を置く。
早くこの場を離れたい。
そう思うのに、足が重かった。

そのとき、女性警察官がわずかに顔をそらしながら、
けれど確かに、美香奈にだけ届く小さな声で──吐き捨てた。

「……いいご身分ね。奥さんは」

その声には、にじむような悔しさと、羨望が入り混じっていた。
ただの嫌味じゃない。
きっと、この人なりに、届かなかった想いがあったのだろう。
──だから、余計に、痛かった。

胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
何か言い返したかった。
だけど、喉はからからに乾いて、声が出なかった。

俯いたまま、深く頭を下げて、警察署を後にする。

外に出た瞬間、冷たい春の風が吹き付けた。
じんわりにじむ涙を、慌てて拭う。
こんなところで泣きたくない。
こんなことで、弱い自分を見せたくない。

だけど──
頑張っても、頑張っても、
胸の奥に溜まった痛みは、簡単には消えてくれなかった。

(涼介……)

心の中で、そっと名前を呼ぶ。
けれど、届くことのないその声は、ただ空に溶けていった。

青空だけが、あまりにも遠く高かった。
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