タイプではありませんが


 今告白されても、結局同じことを繰り返していただけだ。
 だって。
「タイプじゃないもの」
 口に出した楓は自分の言葉に笑う。

 そうなのだ、星野はタイプじゃない。
 身長も楓より少し高いだけだし、中身の包容力はすごいけど、腕の中にすっぽり収まらないし。
身長差があまりないから、キスはしやすいけど。
抱きしめられたとき、意外と筋肉質な体にドキッとはしたけれど。
 顔も悪くないし、きちんと楓のことを女性扱い――対等に扱ってくれるけれど。

 でも、楓のタイプじゃない。
 だから、今胸が痛いとか、同期として接されるのが切ないって思っているのも一時的なもの。
 自分のことだ。またドンピシャなタイプの男性が現れたらきっと忘れられる。
 それに、哲の時もそうだが、告白されてうまく行った試しはないのだ。
 やっぱり自分から惚れないと夢中になれない。

「ホッシーとは縁がなかった」
 そう。ただそれだけだ。
 よし、スッキリした、と呟き、楓は気合をいれて立ち上がる。
 星野からもらった時計をむんずと掴み机の抽斗の奥にしまう。

 これで物理的な星野の痕跡はゼロだ。
 あとは楓の記憶と触れた体の熱さだけ。
 そんなものはすぐに忘れられる。
 違った、忘れちゃいけないんだ。覚えておかないと。
 でも、すぐに過去の思い出になるはず。
 それまでは心の奥底に鍵をかけてしまっておこう。
 ちゃんと思い出になって。できるだけ早く。
 その鍵が弛まないうちに。

 願うような気持ちで、楓は星野との数ヶ月の思いを封印した。
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