タイプではありませんが

19.同期の星野


「おは……、山下、どうしたんだ?その髪」
「おはよ、星野くん。……似合う?」
 朝エレベーターホールで星野に偶然会ったのは、梅雨が開ける頃だった。
 肩甲骨のあたりまで伸ばして括れるくらいの長さだった髪を、うなじがむき出しになるくらいバッサリショートカットにしたのだ。
「うん、いいね。でも急にどうしたん?」
「暑いし、ヨガの時邪魔で」
 他愛もない会話をしながら到着したエレベーターに乗り込む。
 想いを忘れた訳じゃないけれど、これまでに何度も社内ですれ違ったり食堂で一緒になっている。
 さすがにもう話していても心は乱れなかった。
「懐かしいね、その長さ」
 最初に乗り込んだ二人は自然と奥の方で並んで立つことになる。
 ヒールを履いた楓と星野はほぼ同じくらい。
 星野は楓にだけ聞こえるように耳元で囁いた。
「配属された時、それくらいの長さだっただろう?」
「あぁ」
 楓は苦笑する。
 入社して半年。ジョブローテーションが終わって営業に配属が決まったとき、気合を入れるためにショートカットにしたのだ。
 だって楓以外の同期はみんな男だったから。
ショートカットにパンツスーツで男性に負けないように肩肘張って無理して。
 三年が過ぎて一人で満足いく数字が作れるようになるまでずっとそんな格好をしていた。
 その同期もそれぞれ異動や転職で今営業に残っているのは星野だけだけど。
< 157 / 166 >

この作品をシェア

pagetop