タイプではありませんが


 おせちは買う。買ったほうが美味しいから、と公言する母のおかげで、お正月準備と言っても大してすることがない。
 作るのは年越し用の蕎麦の出汁と天ぷらに加え、購入したおせちで足りないもの、子どもたちが好きな黒豆や数の子、きんとん、紅白なますだけ。
 子どもたちが好きな肉類は楓が、つまみになるチーズやナッツ類は他の兄妹が買ってきている。
お煮しめは、余るから作らない。兄や妹もほとんど食べないので、作っていた時は両親と楓がひたすら食べていた。
 毎年恒例なのに一年に一回の行事に懐かしく思いながら、母と並んで台所に立つ。
 今、家にいるのは母と楓だけだ。
 子どもたちは昼ごはんを食べたあと、父と兄一家、妹一家と近くに出来たスーパー銭湯に行っている。
「あんたねー、デパ地下に行ってくれたのは嬉しいけどもっと早く帰っておいでよ。近いんだし。準備ギリギリになるでしょ」
 祖母が生きていた頃はきちんとおせちまで作っていた。それが苦痛で仕方なかった母は自分の代になると、おせちは買うようになり、兄弟たちの結婚相手にも手伝わすことはなかった。
 その分、娘の楓はこき使われるが。
「仕方ないでしょう。お惣菜の受け取りが今日しか無理だったの」
 母がグチグチ言うのは楓だけ。
 祖父母がかわいがっている兄に不満を言うことも、十言えば百文句が帰ってくる妹に愚痴をいうこともできなかった母は、真ん中っ子で妹ほど自己主張が激しくない楓には言いやすかったのだろう。
 煩わしいが、聞いているふりをしていれば満足する母だ。
 昔はいちいち受け止めて真剣に聞いていたが、今は受け流すことができる。成長、といってもいいのか、それとも諦めなのか。楓はどちらかわからないまま母の愚痴を、はいはいと聞き流す。
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