嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして
 アイランドキッチンからは広々としたリビングやダイニングが見渡せる。

(赤坂のマンションでこの広さなんて、すごい物件に住んでいるんだな。でも、物が少ない)

 遥臣は忙しすぎて身の回りのことができないと言っていたが、キッチンには調理道具がほとんどなく、冷蔵庫のなかに入っているのはミネラルウォーターやゼリー飲料ばかり。

 広々としたリビングにソファーやローテーブルはあるがテレビや飾り棚のようなものはない。

「遥臣さんは、あまりここではくつろがないのかな」

 脳外科医として第一線で活躍する遥臣の仕事の忙しさは想像に難くない。そして、いかに彼自身の健康が大切かということも。

 自分が妻でいる間は、彼に少しでも健康的な生活をしてもらおう。

(お給料も貰うんだし、しっかりやらなきゃ)
 
 美琴は心を新たにし、包丁を握る手に力を込めた。

 しばらくするとマンションの玄関で物音がした。遥臣が帰ってきたようだ。ちょうど仕度を終えたところだったので、迎えに出る。

「お帰りなさい」

「ああ、ただい……」

 遥臣はこちらを見て、虚を突かれたような表情になった。

「えっ、どうかしましたか?」
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