嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして
 遥臣はなにかと美琴を抱きしめ、髪や頬に軽くキスを落とす。彼は自分を嫌っていると思っていた美琴にとっては想定外だった。

(それ以上なにかされるわけでもないし、なにかでハグはストレス軽減効果があるって聞いたこともあるし)
 過剰に拒否するのもおかしい気がして、じっと受け入れている。ちなみにこちらはいちいち心臓バクバクで癒されるどころではない。今も、密着していた肩や背中に彼の体温が残っている気がする。

 美琴はドリッパーに丁寧にお湯を注ぐ。キッチンからはソファーに座る遥臣の後頭部が見えた。

 彼はプライベートでは案外ゆるくて、こだわりがない。物が少ないこの部屋がその証拠だ。一度、もう少しインテリアを置いてみたらと提案したら『美琴の好きなようにしていいよ』と言われてしまった。

(好きなようにしてみたい気はするけど、いずれ出て行く身だからでしゃばるのもなぁ……)

 一方、彼は、美琴への心遣いを欠かさない。食事を褒め完食してくれるし、なにかするたびに感謝の気持ちを伝えてくれる。無理をしすぎていないか心配するし、なにかと手伝おうとする。
< 61 / 172 >

この作品をシェア

pagetop