嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして
 患者のために懸命に働いている遥臣の役に立ちたい思いも強かった。――だから。

「遥臣さん、あの、お湯が沸いたので……」

「少しだけ。こうしていると、仕事の疲れが一気に取れる」

 こうして夕食後のキッチンでコーヒーを淹れようとしているところを遥臣に後ろから抱きしめられても、されるがままになっている。しかし彼の胸に背中を預け、腕に閉じ込められている状況はかなり恥ずかしい。美琴は熱い顔に気づかれないように俯く。

「ありがとう、コーヒーもらうよ」

 遥臣はギュッと腕に力を籠めたあと、耳元でささやき美琴を解放した。

 ひとりになった美琴は心の中で大きな溜息をつく。

 婚姻届を提出して2週間ほどたった今、だいぶ遥臣の人となりが見えてきた気がする。

 彼は仕事には妥協しないし隙も見せない。患者には真摯に向き合う一方、組織の中では抜け目なく立ち回り、自分の考える最善の道を進んでいる。だからこそ美琴と仮初の夫婦になった。
(でも、家ではやけにリラックスしているっていうか、スキンシップが多いというか……いや、リラックスしてるのはいいことなんだけど)
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