最弱スキルで転生した俺、気づけば英雄になっていた。
第四章、【最弱スキルで転生した俺、おばあちゃんのおつかいで初めて死を覚悟する】
「それじゃよろしく頼むよ、若いの」

おばあちゃんはにこやかに、杖を支えながら一歩前に出た。

その姿に、俺はつい安堵のため息をついた。



(よかった、おばあちゃん、意外と元気そうだし、大丈夫かな……)



だが、ふと考える。

おばあちゃんを護衛する仕事、って……果たしてどれくらい危険なんだろう?



「さっ、行こうかね!道中、何かあったら守ってくれよ!」

おばあちゃんが嬉しそうに言うと、俺はまた小さな不安がよぎる。

(まぁ、道端でちょっとモンスターが出るくらいなら、なんとかなるかも……

でも、もし強い魔物が出てきたら……)

微風も、正直、無力だ。

こんなんでどうやって身を守るんだろう……?

「気をつけて、ね、若者!」

町を出て、しばらく歩くと、周囲の景色はどんどん自然に包まれてきた。

村の外れ、広がる草原を歩きながら、俺はあたりを警戒して目を光らせる。



「おばあちゃん、これからどこに行くんですか?」



ふと、話しかけてみた。

おばあちゃんはにっこりと、ちょっとした謎めいた笑みを浮かべながら言った。

「うちの家までさ。すぐ近くなんだ。

だけどね、道中、ちょっとお使い頼まれてたから、それを済ませに行くんだよ」

「お使い……?」

「うん!それがね……」

おばあちゃんはふいに足を止め、俺の方を見て、ひそひそ声で言った。



「ちょっと、秘密のおつかいなんだよ」

「秘密って……?」

「うふふ、まぁ、着いてからのお楽しみさ」

そう言っておばあちゃんは、また軽やかに歩き出す。

俺は少しだけ戸惑いながらも、歩調を合わせる。

(でも、この辺り、ちょっと薄暗くなってきたな。

おばあちゃん、平気なのか……?)

その時だった。

「おい、あれ、見て!」



突然、おばあちゃんが小さな声で叫んだ。

俺は驚いて振り向くと、遠くに黒い影が見えた。

少しずつ近づいてきている。それは、何かの影。

「な、なんだ?」

「狼だよ。気をつけて!」

おばあちゃんがさっと背後に身をひるがえ、杖を構えた。



────狼?

まさか、本当に出てきたのか!?

心臓がドクンと跳ね上がる。



黒い影は、どんどんこちらに迫ってきた。

見たことのある、狼の姿だ。

大きな体、鋭い牙、そして凶暴そうな眼光。

(うわ、やばい!)

「おばあちゃん、危ない!」

俺は急いで前に出ようとしたが──



「待ちな!」



おばあちゃんが止めた。

「じっとしてて。これくらい、あたしに任せなさい」

おばあちゃんは杖を力強く地面に突き立て、

まるで魔法のようにその場の空気を変えた。

「……なに!?」

びくっと肩を震わせる俺。



(まさか、このおばあちゃん、魔法使い!??)



狼が迫る。

おばあちゃんの杖の先端から、ひゅんと風が吹き出した。

それは、ほんの微かな風だった。

まるで微風が草を揺らすように──しかし、それがまるで何かを呼び覚ましたかのように。

一瞬の後、風のように流れる何かが視界に見えた。

「なんだ、これは……?」

俺が思わず呟くと、狼がその場で急に立ち止まり、

尻尾を巻きながら後退し始めた。



「これが、私の力さ」



おばあちゃんは、ゆっくりと微笑んで言った。

その後ろでは、狼がもうすっかり逃げて行くのが見えた。

(え、えええ!?何が起こったんだ!?)

「おばあちゃん、あの狼、すごい勢いで逃げていったけど……」

「うん。あれは私が“風”を使ったんだよ。

微風でも、相手にはちょっとだけ恐ろしい力になる」

「微風?……それって、俺と同じスキル……?」

俺の言葉におばあちゃんはクスクスと笑って、

肩をポンポンと叩いてくれた。



「そうだよ。君と同じ、微風。それを使うには、少し工夫がいるけれどね」

「でも、どうして狼があんなにすぐに引き下がったんだ?」

「ふふ、実はね、あたし、長年の経験で微風をうまく使うコツを知ってるんだよ。

それに、狼だって、多少は怖がるんだよ。強い者には」

おばあちゃんがにっこりと笑った。

俺はその言葉を聞いて、少しだけ安心した。

(なるほど……微風を使うには、やっぱり技術が必要なんだな)

「さあ、行こうか。お使いも、もう少しだよ」

おばあちゃんがもう一度歩き出すと、

俺も後ろからついて行った。



でも──



(この調子で、また危険なものに遭遇したら……)



次に、どんなモンスターが現れるのか、

俺は少しだけ、胸が高鳴るのを感じていた──。

「そういえば、おばあちゃん、秘密のお使いって...」

「ふふふ。もうすぐさ。」

おばあちゃんはへにゃりと笑った。

「にゃーん。」

俺とおばあちゃんの前に黒い、子猫が立ちはだかった。
その猫はただならぬ雰囲気を醸し出していた。猫の両耳には青いリボンに黄色いきれいな鈴の髪飾りを付けていた。その黒猫は俺達をじっと見つめている。

「猫...?ごめんな。俺達急いでるんだ。この先行っていいか?」

「...にゃーん。」

黒猫...。子猫は鳴くだけだった。俺とおばあちゃんは仕方なく、黒猫を無視して先に行くとにした。

「待ちな。若いの。」

「え?」

おばあちゃんは杖で俺の背中をツンツンと突き呼び止めた。

「なーん。」

猫の声。たしかに猫の声だった。しかしさっきの黒猫より、ドスがきいた鳴き声だった。
俺は振り返るのを拒んだ。怖かった。もしこの猫がモンスターだったら。敵だったら。襲ってきたら。強かったら。色々と考えた。

「化け猫さ。若いの、あんたが倒しな。」

「え、お、俺が?!」

(いやいやいや.......おばあちゃん!俺微風だけしか使えないんだぞ!それにおばあちゃんみたいに上手く微風を操れないんだぞ!)

またまた心のなかで総ツッコミ。でも、これは護衛のクエスト。俺は知っている。ここで諦めたら、後で後悔するって――。
でも、一体どうやってスキルを使えばよいのだろうか。スキルなんて一回も...。いや、一回使ったことがある。転生したばっかの時、森で一度スキルを発動した。その時は確か...。

「スキル、発動!」

俺は化け猫に手のひらを向けた。最弱スキル【微風】。これが戦いに役立つのかわからない。けれどやってみる価値はある!やらない後悔よりやって大成k...((((
と、とにかく!やらなくて後悔するより、やって後悔したほうがいいに決まってる!座右の銘で合ったはずだ。

フワァ。

相変わらずの微風だ。

しかし、その微風を放ったときだった。


「フーッ、シャーッ!!」

化け猫はこちらを見るなり威嚇し、去っていった。

「勝った...のか...?」

「若いの。あんたにはただならぬオーラが出てる。あの化け猫のようにね。」

おばあちゃんは半分睨んで半分笑っているような、不気味な笑い方で言った。おばあちゃんあこう続けた。

「けどあの化け猫は悪心のオーラだ。憎しみ、悲しみ。殺気。すべての悪心が詰まったオーラ。けど、あんたのオーラは少しだけ違う。良心のオーラだ。勝ちたい。助けたい。楽しませたい。幸せにしたい。その気持であんたのオーラは出来ている。あの化け猫はきっとあんたのオーラにビビって逃げたんだろうな。」

(なんだ...。スキルで勝ったんじゃないのか...。)

力が抜け俺はへなへなと地べたに座り込む。

「若いの。お使いまであとちょっとだよ。」

おばあちゃんはそう言うと杖を差し出してきた。このおばあちゃんは護衛の依頼者。なのにこんな見ず知らずの護衛者の俺に優しくしてくれる。改めて優しさを心に感じた。

数分歩いた。するとそこには小さなメルヘンチック(?)な小屋が合った。

「アベル。あれ、貰いに来たよ。」

そこには白い髪をポニーテールにした少女が居た。

「イトおばあちゃん!待ってたんだよ〜!!一人で大丈夫だったの?」

白い髪の少女はパタパタとおばあちゃんに駆け寄った。

「あぁそれなら心配いらないよ。この若いのといっしょに来たからねぇ。」

そうおばあちゃんが言うと少女はパッとこちらを見た。

「若いのさん!おばあちゃんがお世話になりましたっ!!えっと、私アベル!貴方のお名前は...?」

少女は太陽のような笑顔でこちらを見た。

「えっと、名前......」

思い出せない。思い出そうとすると頭が痛む。おかしい。その他のことは思い出せてたのに名前だけは思い出せない。
しどろもどろになっている俺をおばあちゃんと少女は気の毒そうに見つめる。

「思い出せないのなら私付けてあげる!そうね...。貴方白みたいに純粋だから、クレム!クレム・ブランカ!どっちも白を強調させる名前なのよ!」


クレム。クレム・ブランカ。俺は今日からそう名乗る。名付け親のアベルによって名付けられた名前。これからこの名前で。この街でやっていきたいと、もう一度心に誓った。

「そういえば秘密乗って...」

「あぁそういえば言ってなかったね。これだよ。」

おばあちゃんはにへと笑い木箱を差し出してきた。

「木箱...?」

おばあちゃんが差し出してきた木箱の中には

・謎のハーブ束
・干からびた魔獣の角
・小瓶に詰められた紫色の液体
・カラカラ音を立てる何かの骨

……と、どう考えてもヤバいものばっかり詰め込まれていた。
おばあちゃんはニコニコしながら言った。

「それを、森の向こうの“薬師ルド婆さん”に届けておくれ」

え、え、

「えぇぇぇぇぇ?!」

やっと護衛が終わったと思ったら、お届け物か。随分、ハチャメチャな一日だな...。

「お使いに期限はない。落ち着いた時にでも届けておくれ。」

(……落ち着いた時、ね)

俺は、重たい木箱を見下ろして、小さくため息をついた。

カラカラと、また骨みたいな音が鳴る。

──はたして、俺にそんな「落ち着いた時」なんて、来るんだろうか。
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